甲状腺機能低下症と不妊

甲状腺機能低下症とは?

甲状腺はのどぼとけの下にある蝶が羽を広げた形をした臓器で、甲状腺ホルモンというホルモンを作っています。

このホルモンは、血液の流れに乗って心臓や肝臓、腎臓、脳など体のいろいろな臓器に運ばれて、身体の新陳代謝を盛んにするなど大切な働きをしています。

甲状腺ホルモンが少なすぎると、代謝が落ちた症状がでてきます。

甲状腺ホルモンの産生は脳下垂体より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調節されます。

「甲状腺機能低下症」とは、血中の甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態です。

甲状腺機能低下症による症状には、一般的に、無気力、疲労感、むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、便秘などがあります。

軽度の甲状腺機能低下症(潜在性甲状腺機能低下症)では症状や所見に乏しいことも多いです。

甲状腺機能低下症が強くなると、傾眠、意識障害をきたし、粘液水腫性昏睡と呼ばれます。

また、甲状腺ホルモンは、代謝の調節以外にも、妊娠の成立や維持、子供の成長や発達に重要なホルモンなので、甲状腺機能低下症では、月経異常や不妊、流早産や妊娠高血圧症候群などと関連し、胎児や乳児あるいは小児期の成長や発達の遅れとも関連してきます。








潜在性甲状腺機能低下症とは?

潜在性甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモン(サイロキシン[T4]あるいは遊離サイロキシン[FT4])は基準値内ですが、視床下部や下垂体が甲状腺ホルモンの不足を鋭敏に察知し、下垂体から分泌されるTSHが基準値上限を超えて高値を示す状態です。 

甲状腺ホルモンが基準値以下になる顕性甲状腺機能低下症の前段階と考えて頂くとわかりやすいです。

潜在性甲状腺機能低下症は一般人口で4~15%とされ、女性に多く、高齢者になるとさらに高くなります。

ちなみに、自然妊娠における流産率はおよそ10%〜20%程度とされています。

しかし、潜在性甲状腺機能低下症の状態で、TSH≧2.5の状態では流産率は30%以上になるという報告があります。

潜在性甲状腺機能低下の状態では自然妊娠で起こり得る流産率をはるかに上回る流産が起こり得ることがいえます。






なぜ、潜在性甲状腺機能低下症で不妊になるのか?

甲状腺機能低下症が不妊となるのは排卵障害の頻度が高まることがいえます。

また、排卵障害がなくても、受精率や着床率などが低下することで妊娠率が低下する可能性があります。

甲状腺機能が低下すると性ホルモン結合グロブリン(SHBG)とエストロゲン(卵胞ホルモン)やテストステロン(男性ホルモン)とが結合しづらくなり、フリーのエストロゲン、テストステロンが増えます。

甲状腺機能低下症では高プロラクチン血症や性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌異常を引き起こし、妊娠しづらい状態にします。

また、TSHが、子宮内膜NK(ナチュラルキラー)細胞を活性化するという報告もあります。

NK(ナチュラルキラー)細胞は血液中の癌細胞やウイルス感染細胞を排除するリンパ球で、子宮内に移動、子宮内膜NK細胞となり、胎児を守ります。

しかし、NK(ナチュラルキラー)細胞活性が強過ぎると、胎児を排除する方向に働いてしまいます。


参考文献:[Clin Rev Allergy Immunol. 2010 Dec;39(3):176-84]






潜在性甲状腺機能低下症の治療法は?

米国甲状腺学会ガイドラインにのっとり、流産しないための甲状腺ホルモン補充療法行うことが主流のようです。

潜在性甲状腺機能低下症は、流産、早産や妊娠高血圧症候群のリスクが高く、治療によりそのリスクを改善できる可能性が高いので、TSH2.5µU/ml以下を目標に、合成T4製剤(チラーヂン®S、レボチロキシンNa)の内服を開始します。

甲状腺自己抗体が陰性であっても、不妊治療中である場合や流産を繰り返している場合など、治療による効果を期待して合成T4製剤治療を行うこともあります。

特に、体外受精を予定されている場合では、採卵周期、移植周期の各時点で必ずTSHの確認を行い、TSH<2.5に安定するまでは採卵移植周期に入らず、しばらく甲状腺の治療に専念することが重要なようです。








まとめ

潜在性甲状腺機能低下症は放置すると動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞などの心血管の疾患が増えると報告されているため、 これから妊活を行う方は、医療機関などを受診して指導を受けると良いでしょう。

特に、疲労感やむくみなどの自覚症状やLDLコレステロールや中性脂肪が高い場合は、一度くわしい検査を受けることをおすすめします。